Cape HEIGHTS PEOPLE VOL.9
NATSUMI INOUE(えびす屋 俥夫)

Cape HEIGHTS PEOPLE VOL.9NATSUMI INOUE(えびす屋 俥夫)

読了時間 5分

ケープハイツがテーマに掲げる“熱量”。それは、雪山をはじめとする厳しい自然環境はもちろん、先行き不透明な都市生活のなかにあっても我々をその先へ導く羅針盤になるはずだ。

そんな熱量を持って日々過ごし、自分らしく生きる人々こそが“ケープハイツピープル”。連載9回目は、人力車を引っ張る浅草の女性俥夫が登場。雨の日も風の日も走る彼女の原動力を、Q&Aで紐解いていく。

 

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「俥夫は私の天職だなって思っています」

――早速ですが、仕事内容について教えてください。

「人力車を走らせてのご案内がメインですが、まずはお客様に乗ってもらわないと始まりません。自分で工夫して営業して、乗っていただく機会を作らなきゃいけないんです。私の場合は、ほぼ毎日10時から17時半くらいまで働いています。営業が終わったら人力車を綺麗に拭き上げて、指紋も水滴も一切残さずピカピカにします」

――俥夫になろうと思ったきっかけは? 浅草生まれですか?

「きっかけというよりは、直感ですね! ちなみに東京の昭島市生まれで、ここで働くまで人力車に乗ったこともなければ、浅草にもあまり足を踏み入れませんでした。英語の専門学校を途中でやめて自分が本当に熱中できるものを探していた時、なぜかこの会社のHPにたどり着いて。心にビビッときたんです。昔からスポーツをやっていたし、人と話すことも大好き。俥夫は私の天職だなって思っています」

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――スポーツは何を?

「ラグビーです。女子では珍しいですよね。ポジションはスクラムハーフ。高校生までは男子と一緒に身体をぶつけ合っていました。だからか、男性ばかりの中に混ざって何かやることにまったく抵抗がないんです。俥夫の皆さんは優しいし、楽しいです」

――力仕事ですから、女性ならではの大変さもあると思います。

「う〜ん、どうでしょう。正直なところ、女性だから不利とかは考えたことがないかも。逆に女性ならではの強みならあるかもしれません。女性のお客様にも安心して乗っていただけると思いますし。世間一般的には男性的な職業に見られるので、女性俥夫にはギャップがあって珍しがってくれたりもしますから」

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「乗ってもらえなくても、笑ってくれるだけでもいいかなって」

――では性別に関係なく、俥夫の仕事のやりがいは?

「たくさんありますよ。一番は、俥夫をしていなかったら出会えなかったであろうお客様と触れ合えること。人力車に乗った体験がお客様の人生の1ページなるはずですし、当然私の人生にもお客様との思い出が刻まれる。だからこそ、雨の日だって風の日だって頑張れます。それと私個人的な話だと、いろんな力が身について人間的に成長できている気がするんです」

――具体的にはどんな力でしょう?

「営業力、体力、ホスピタリティ、忍耐力……。本当にいろいろ学べます。総じて人間力と言ったらいいんでしょうか。あとはお客様との関係性から学ぶものだけでなく、一緒に働いている俥夫の方がユニークな性格の持ち主が多くて。少しお休みがちだなと思っていたら、いきなり船の免許を取ってきちゃったり。考え方も独特で面白いから、そういう同僚からも刺激をもらえます」

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――先ほどから浅草の街中で頻繁に声をかけられていますね。みなさん仲が良さそう。

「おかげさまで楽しく仲良くさせていただいています。仕事仲間でもあり、ある意味でライバルでもありますが、みなさん優しい方ばかりです」

――ライバル?

「お客様は一度にひとつの人力車にしか乗っていただけませんから。でも、先輩方は丁寧に呼びかけやブレーキのかけ方のコツを教えてくれたり、優しく指導してくださいます。人力車って、みなさんなかなか乗ってくれないんですよ。ちなみに乗られたことありますか?」

――ありません……。

「ほら(笑)! 興味はあるけれど、実際には乗ったことがない人、乗ってくれない人が多いんです。だから営業の仕方はとても大事。私の場合、先輩から教わったことの実践に加えて、お客様に目で訴えるようにしています。頑張ります! キラーン! みたいな(笑)。たとえ乗ってもらえなかったとしても、ちょっと笑ってくれるだけでもいいかなって」

――井上さんご指名のお客様もいらっしゃると聞きました。

「海外の方のご案内を任せていただくことも増えましたし、私の写真を見て選んでいただいたり、ありがたいことにリピーターさんもできました。お子様とご家族みんなで乗られた方で、次の年にも来てくださって。その子が少し大きくなっていて、本当に感動しました。このお仕事をもっと続けたいなと思う瞬間ですね!」

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「私服はシンプルで動きやすいものが好き」

――俥夫を続けるうちに、浅草は好きになりました?

「もちろん! この会社で2年働かせてもらって、浅草の面白さを実感しています。歴史があって、人が暖かくて、ユニーク。名所もいっぱいありますしね。これからの季節のおすすめスポットは、ずばり待乳山聖天です。東京で一番古いお寺さんと言われていて、境内がイチョウで金色に染まる。とにかく素敵なんで、ぜひご案内したいです」

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――では最後にプライベートも聞かせてください。普段はどんな服装が多いですか?

「私服はそんなにこだわりはなくて、シンプルで動きやすいものが好き。基本はTシャツで、冬はそれにアウターを着たり。アウトドア系も多くて、こういうダウンも好きです。というか、これすごくいい。内側にバンドがついていて、暑くなって脱いだ時も肩からかけられるんですね」

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――ミリタリーウェアのディテールをモチーフにしています。

「へ〜。女の子がそうやって着崩していても可愛いし、すごくいいと思います。丈が短めのところもキュートだし、いいなあ、欲しいなあ。お仕事頑張って、買っちゃおうかなあ!」

PROFILE
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井上奈津美
東京都出身。専門学校を卒業後、いくつかのアルバイト経験を経て浅草のえびす屋の俥夫に。得意の英語と自慢の体力、愛嬌を武器に大活躍。常連客や海外からの指名も多数抱える。

えびす屋
1992年に創業し、今年で30周年を迎える観光人力車。京都嵐山を皮切りに拠点を広げ、現在では京都東山、小樽、浅草、鎌倉、宮島、倉敷、関門、湯布院、函館、神戸で人力車を走らせる。