Cape HEIGHTS PEOPLE VOL.6 YU SHIBUYA(脚本家・映画監督)

Cape HEIGHTS PEOPLE VOL.6 YU SHIBUYA(脚本家・映画監督)

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ケープハイツがテーマに掲げる“熱量”。それは、雪山などの厳しい自然環境はもちろん、先行き不透明な都市生活のなかにあっても、我々をその先へと導く羅針盤になるはずだ。

そんな“熱量”を持って日々を過ごし、自分らしく生きる人々こそが“ケープハイツピープル”。連載6回目は、脚本家・映画監督の仕事場に潜入。そこは他に類を見ないほど、“熱”が充満した空間だった。

消えそうな”大切なものを伝える、
クリエイティブに対する真摯な姿勢。

エンターテインメントという文化に興味を抱いたのは、高校生の頃だった。その理由について、「放っておいたら衰退してしまうものを食い止めたいという、使命感めいたもの」と渋谷 悠さんは話す。当時の目標は舞台俳優だ。

「明確なビジョンがなかったこともあり、まず人に影響を与えやすいであろう演者を目指したんです。日本のインターナショナルスクールを卒業後、渡米先の大学で演技を学びました。でも次第に、用意された役を演じることでは、自分自身のメッセージが伝えにくいと思うように。以降は専攻を書き手にシフトして、ひたすら読み、書いて、教えましたね」

アメリカ人学生を相手に、日本人が英語の文章の書き方を講義する。題材はエッセイから文学まで。そうして大学院まで修了し、文学の修士号を取得。帰国後は、演劇というある意味で閉鎖的な世界や、商業映画特有の紆余曲折に巻き込まれながらも、脚本家としての活動をスタートする。

「いろいろありました(笑)。駆け出しの雇われの脚本家なんて、もう酷い扱いで。ストーリーを無視して、別の都合で話の骨格が変わっていく。しかも途中でポジションを外されたうえに、最終的にぐちゃぐちやになっちゃったものを一晩でもう一度まとめ直してくれとか(笑)。ただ、反面教師的な観点で見れば貴重な経験だったと思います」

その後、限られたバジェットながら自らが脚本とプロデュースを手掛けた映画『自転車』が、ベネチア国際映画祭で入選。「クリエイティブを大切にする環境さえ作れれば、ちゃんと結果は出る」。そう確信した渋谷さんは、以降も自らの心のアンテナを道しるべに作品を紡ぎ出す。

「僕が書かなかったら消えそうなものがあると思っていて。とても小さい感覚だとしても、それを伝えていきたいです。たとえば、人はなぜ傷つくのか、そこからどう抜け出そうとするか。人の心の動きって予想できないし、やはり面白いですよ」

身の回りのものすべてを仕事に投資して、
自らの目標に向かって突き進む。

人の内面である心の動きに大きな関心を持つ渋谷さん。では人の外面、すなわち服装についてはどう捉えているのだろうか。そう半ば無理やり水を向けると、はにかみながらこう答えてくれた。

「そっちについては、僕は諦めてしまった人間で(笑)。いろいろと考えた結果、“お洒落とはリスクをとること”だと思うんです。人と違うとか、なにかアクセントを入れるとか、一応昔は頑張ったんですが難しくて。だから今は、もっぱら着やすさと動きやすさ重視。その点、このフリースは気に入りました。とにかくラクだし気持ちいい。室内でも重たく感じず、気分転換がてらコンビニに栄養ドリンクを買いに行くときも寒くない。ファッションに疎い僕が言うんだから、本当にお世辞じゃないですよ(笑)」

大きなデスクトップが置かれた仕事場の周りには、山のように戯曲が積まれている。その合間から覗く、TVゲームや漫画の数々。これも気分転換のためだろうか。

「最近はあまり手がつけられませんが、ゲームと漫画は昔から好きです。ゲームって、映画に比べてすごく長い時間楽しめる。この秘訣ってなんだろうって。もっと言えば、飽きるとか飽きさせるって何が原因なんだろうとか。その思考は映画の仕事にも反映できる。話の作り方はもちろん、ユーザーインターフェースの良し悪しだったり。漫画もそう。印象的なコマ割りをメモしておけば、映画の構造に応用できますから」

すべては仕事であり、生き様でもあるエンターテインメントのために。畏怖に似た感覚すら覚えさせられる“熱量”の高さが、渋谷さんの日常を突き動かす。

「今の夢は、東京芸術劇場やブロードウェイで自分の作品を観てもらうこと。それをデスクトップの上の壁にビジュアルとして貼っていて、日々意識しているんです。その夢に少しずつでも近づけるよう、これからも頑張っていきます」


PROFILE


映画監督から脚本、舞台演出までマルチに才能を発揮。2018年には日本初のモノローグ集「穴」を上梓。現在は構想6年の舞台『底なし子の大冒険』に上演に向けて準備中。

INFORMATION


牧羊犬第4回本公演『底なし子の大冒険』(作・演出 渋谷悠)
2021年12月3日(金)~12日(日)全16回公演

【公式サイト】
https://www.shibu-shibu.com/sokonashiko

【あらすじ】
大人のための童話作家、糸瀬はづきは母親の死をきっかけに自身が受けた虐待を題材にした『底なし子の大冒険』を書き始める…。笑いあり、涙あり、生きる力を取り戻す感動の舞台。

【チケット料金】
一般前売:4,500円(税込)

【会場】
恵比寿・エコー劇場
https://s-echo.co.jp/?p=853